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いつも通りの帰り道、日がわずかに傾いていて少し眩しい。
いつもと同じ道を、いつもと同じく一人で歩いていく。
「!」
ふと、誰かが突然私の脇を通り過ぎて行った。
びっくりして肩が跳ねる。
考え事に耽っていて足音にも気配にも気づかなかった。
同じ学校の制服を身につけた、男子生徒。
思わずその後ろ姿を見つめていると、パサッと乾いた音がした。
足元を見ると、黒色のパスケースが落ちている。
彼のものかもしれない。
私は慌ててそれを拾うと、その背中に声をかけた。
「あの!」
彼は私の声に驚いたのか肩を震わせた。
ちょうど先ほどの私のように。
振り向いた彼の表情は何故か緊張気味。
その顔は、知っていた。
「あ、ポキくんだ」
その名を口にすると、彼は緊張がほどけたように目を丸くした。
「俺の名前、覚えててくれたの?」
「当たり前だよ! 同じクラスなんだから」
高校2年のこのクラスになってもう何か月経ったことか。
人付き合いの苦手な私でも、クラス全員の顔と名前、それからある程度の性格は把握しているつもりだ。
ポキくんとは今年初めて同じクラスになった。
話したことは……あったかな? ないような気がする。
彼は私の言葉に、マスクをしていても分かるくらい嬉しそうに笑っていた。 おかしな人だ。
私が彼の名前を覚えていたことがそんなに驚きなのかな?
なんて考えているうち、声をかけた当初の理由を思い出して、手にしていたパスケースを彼に差し出す。
「これ、ポキくんの?」
「あ、そうそう!俺の!」
と、ポキくんはパスケースを受け取る。
「ありがとう!」
その目元に穏やかな笑みを湛えて私に向き直った。
「ううん、どういたしまして」
そんな大層なことはしていないので、どういたしましてなんていう返事をすることは少し躊躇われたけれど、結局そうした。
「……」
「……」
お互いが黙り込む。
じゃあね、と直ぐに言えれば良かったのに、そのタイミングを測るのが難しかった。
と、ポキくんが俯いた顔を上げる。
「────あのさ!」
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時