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「方向、同じだよね。 一緒に帰らない?」
一息で彼は言った。
方向……同じ、だっけ。知らなかった。
「ポキくんもバス通学?」
「そう、バス、俺、同じ」
何故か片言で単語を並べて答える彼。
最初に私が声をかけたときと同じような、緊張の色が舞い戻っている。
「そうだったんだ。 うん、一緒に帰ろ」
何だか一生懸命なその姿が可愛らしいとさえ思えて、小さく笑ってしまう。
ポキくんは私の言葉に安堵したように息をついてから、また嬉しそうに笑った。
彼と並んでバス停へ向かう。
誰かと一緒に帰るなんて、いつ振りだろう。
「Aさんって」
「Aでいいよ」
「……じゃあ、A、って」
ポキくんの声は私の名前の部分だけ小さく萎んだ。
それでも名前で呼んでくれたことが嬉しい。
それだけで距離が縮まったような気がする。
ポキくんは、訊きたいことがあるけれど躊躇っているように見えた。
と、意を決したように言う。
「か、彼氏いるの?」
突然の恋話に心臓が跳ねる。
慣れていないから照れくさい。
「いないよ!」
首を横に振って答える。
照れくさい、なんて言ってもそんな大した経験があるわけでもない。
彼氏もいないし、好きな人もいない。
そもそも恋なんて、あまりしてこなかった。
というか、出来なかった。
男子も女子も、私と話すときはどこかよそよそしくて、なかなか仲良くなれないのだ。
中学でも、高校に入ってからも。
どうしてなんだろう……。
私が無意識に何かしてしまっているのかな。
例えば、怖い表情で接してしまっているとか。
「マジ!? じゃあ好きな人は?」
昂った様子のポキくんが問うてくる。
「いないよ」
先ほどよりも冷静に答えられた。
彼は「おぉ!」と謎にテンションが上がっている様子。
普通、恋話って、ここで「いる」と答えて盛り上がるものだと思うのだけれど……。
「ポキくんは?」
と、今度は私が尋ねると彼は「えっ」と身を硬くした。
見て分かるほどに動揺している。
わずかに覗いている頬も心做しか赤い。
「俺もいないけど!」
わざとらしく前髪を直す仕草に、思わず笑ってしまった。
「嘘、絶対いる反応じゃん」
笑いながら言うと、彼は言い訳を探すように目を泳がせていたが、やがて観念したように、へへ、と笑った。
「バレた?」
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時