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ふと、れんがこちらを向いた。
むすっとしていたのがバレてしまった。

「え、もしかしてずっと変顔しとった? 気づかんかった」

可笑しそうに笑う彼。
変顔なんて、失礼なことを言ってくれる。

「はいこれ、出来たやつ!」

包装を破り終えたリメイクシートをどさりとれんに渡す。

変顔という台詞には何も言い返さないことにした。
れんよりも大人だから。 流してあげるのだ。

「まだこんなにあるのかー」

と、れんが呟く。

Aがちらりと男子たちを振り返った。
俺もつられてそちらを向く。

彼らには看板のデザインとカフェのメニューを考えて貰っていた。

が、行き詰まっているのかサボっているのか、彼らの手元にあるメモ用紙は真っ白だ。

「れんくん、あっち手伝ってきてくれない?」

Aが言う。
れんは男子たちを一瞥して「分かった」と立ち上がった。

「ポキくんは私とこの続き、でもいい?」

と、彼女はダンボールとリメイクシートを掲げてはにかんだ。

「……うん!」

あー、俺って単純。

俺の気持ちをマイナスにするのもプラスにするのも、いつだってきみだ。

さっきの憂鬱も、Aの笑顔ひとつでなかったことになる。

────でも、恋ってそういうものなんだろうな。



*



先ほどのれんの役割を今度は俺が担った。

ダンボールを押さえる俺の手に、リメイクシートを貼る彼女の手がときどき触れそうになる。

加えて、いつもより近くにあるAの存在に、心臓が騒ぎ始めた。

彼女の髪が揺れるたびに鼻先をかすめる控えめで清楚な甘いにおいが、俺の意識を宙吊りにする。

気づかないうちに、Aの横顔を見つめていた。

すぐそばに、目の前に、こんなに近くにいるのに触れられない。

……でも、それでも。

「出来た! さっきより上手くなったよ」

と、笑う彼女と至近距離で目が合う。
────今はそれだけで充分だった。

どんあ状況であれ、彼女と同じ空間で、同じ時間を共有出来ることがどれほど幸せなことか。

「ほんとだ」

なんて、笑い返す。

くすぐったいこの距離感。
ずっと、このまま手放したくない。



.

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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時

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