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#18 ページ18





「俺が選んだ」

「そうなの?」

「そう。 A、それ飲みたいかなって」

れんもコンビニに行っていたんだ。
いや、それは良いとして。

「さすがれんくん。 ありがとう」

嬉しそうにストローに口をつける彼女に笑い返すれん。

二人の声がやけに反響して聞こえる。
深くて暗いトンネルの中に置き去りにされているみたいに。

心に湧いたモヤモヤは、そのうち意識まで蓋して覆ってしまった。

何でそんなに仲良いの? いつからそうなの?

同じ質問ばかりが、言葉にならないまま頭の中を駆け巡る。

……ヤキモチとか。 かっこ悪いな、俺。

ただの意気地無しな自分が情けなく思える。
けれど、感情は独りでに存在感を増していく。

直接臓器を撫でるみたいにして身体の中を這いずり回る感情を、払拭して追い出すには、頭に浮かんでいる考えを言葉にして二人に確かめるしかない。

そうすれば、この不安感も焦りもいなくなる。

自分にとって都合の悪い答えだったとしても、モヤは晴れる。

……分かってるけど、やっぱり無理だ。
“都合の悪い答え”だったら、受け止められる自信がない。

せいぜい口を噤んで、二人の仲を探って自分で勝手に想像することしか出来ない。



「……くん、ポキくん!」

唐突に聞こえたAの声に、ぱちんと泡が弾けるようにして意識が現実に戻った。

どうやらずっと名前を呼ばれていたみたいで、彼女とれんは心配そうな顔でこちらを向いている。

「……ごめん、ぼーっとしてた」

「大丈夫?」

そう訊くAに、こくこくと頷く。
ホッとしたように息をついて一瞬顔を見合わせた二人。

そんな些細なことにさえ、モヤモヤは広がる。
繊細で、過敏で、鬱陶しい心。

「バス停着いたよ」

れんが言う。
呼ばれていたのは、それが理由らしかった。

「体調悪い?」

「ううん! 全然元気」

この言葉は嘘ではないけれど、浮かべた笑顔は何故かぎこちなくなる。

そんなやり取りをしているうちにバスが来た。

「じゃあ、また明日」

れんが言う。

「ばいばい」

「またねー」

俺とAはそう返し、バスに乗り込むと一番後ろに座った。
バスは相変わらずガラ空きだった。

扉が閉まる。
窓越しにれんに手を振ると、彼も同じように返してくれた。

緩やかにバスが走り出す。
リュックを膝の上に抱えて座り直した。

そして、何故か訪れる緊張感。
初めて彼女と二人で帰ったときみたいだ。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時

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