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「俺が選んだ」
「そうなの?」
「そう。 A、それ飲みたいかなって」
れんもコンビニに行っていたんだ。
いや、それは良いとして。
「さすがれんくん。 ありがとう」
嬉しそうにストローに口をつける彼女に笑い返すれん。
二人の声がやけに反響して聞こえる。
深くて暗いトンネルの中に置き去りにされているみたいに。
心に湧いたモヤモヤは、そのうち意識まで蓋して覆ってしまった。
何でそんなに仲良いの? いつからそうなの?
同じ質問ばかりが、言葉にならないまま頭の中を駆け巡る。
……ヤキモチとか。 かっこ悪いな、俺。
ただの意気地無しな自分が情けなく思える。
けれど、感情は独りでに存在感を増していく。
直接臓器を撫でるみたいにして身体の中を這いずり回る感情を、払拭して追い出すには、頭に浮かんでいる考えを言葉にして二人に確かめるしかない。
そうすれば、この不安感も焦りもいなくなる。
自分にとって都合の悪い答えだったとしても、モヤは晴れる。
……分かってるけど、やっぱり無理だ。
“都合の悪い答え”だったら、受け止められる自信がない。
せいぜい口を噤んで、二人の仲を探って自分で勝手に想像することしか出来ない。
「……くん、ポキくん!」
唐突に聞こえたAの声に、ぱちんと泡が弾けるようにして意識が現実に戻った。
どうやらずっと名前を呼ばれていたみたいで、彼女とれんは心配そうな顔でこちらを向いている。
「……ごめん、ぼーっとしてた」
「大丈夫?」
そう訊くAに、こくこくと頷く。
ホッとしたように息をついて一瞬顔を見合わせた二人。
そんな些細なことにさえ、モヤモヤは広がる。
繊細で、過敏で、鬱陶しい心。
「バス停着いたよ」
れんが言う。
呼ばれていたのは、それが理由らしかった。
「体調悪い?」
「ううん! 全然元気」
この言葉は嘘ではないけれど、浮かべた笑顔は何故かぎこちなくなる。
そんなやり取りをしているうちにバスが来た。
「じゃあ、また明日」
れんが言う。
「ばいばい」
「またねー」
俺とAはそう返し、バスに乗り込むと一番後ろに座った。
バスは相変わらずガラ空きだった。
扉が閉まる。
窓越しにれんに手を振ると、彼も同じように返してくれた。
緩やかにバスが走り出す。
リュックを膝の上に抱えて座り直した。
そして、何故か訪れる緊張感。
初めて彼女と二人で帰ったときみたいだ。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時