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#19 ページ19

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比喩的な意味じゃない、ポキくんの隣。

それは心地好い場所のはずなのに、今は何だか居心地の悪さを感じてしまう。

いつもと違って口数の少ない彼に、いつもと違う雰囲気を感じて、何も話しかけられなかった。

学校を出るまでは普通だったのに。
なにか怒っているのかな、なんて心配になる。

気まずい沈黙。
こういうときって、どうすれば良いのかな。

勇気を出して話しかけるべき?
それとも、彼が口を開くのを待つべき?

考え出したら、心臓がどくんどくんと騒ぎ始めた。

意味もなく宙に視線を彷徨わせ、速まる鼓動にちょっと戸惑う。

今までこんなふうに、隣にいてくれる誰かに思いを巡らせたことなんてなかった。

その人を見て“いつもと様子が違う”だなんて、思ったこともなかった。

────でも、今は違う。

私は考えてる。 隣にいる、ポキくんのことを。
少なからず変化しているのだ。 関係性が。

ふと、ポキくんがマスクを摘んで上げ直した。

その動作を無意識に横目で追って、彼と目が合いそうになる。

慌てて前を向くと、抱えた鞄を抱き締めるようにして小さく息をついた。

……おかしいな。 何だか、意識しているみたいで。



バス停で、バスが止まった。
乗っていた私たち以外の乗客が降りていく。

窓からの金色の光があふれそうな小さな世界の中に、私と彼の二人が取り残された。

「あのね────」

私は前を向いたまま言った。

視界の端でポキくんが動いて、こちらを向いてくれたのが分かった。

「ありがとう」

ポキくんの方を向いて笑った。

彼は突然の言葉にピンと来なかったようで、数度瞬きをして私を見つめ返した。

「私ね、本当は寂しかった。 一人で過ごしてた時間」

とはいえ。

人付き合いが苦手なのは、誰とも打ち解けられないのは、周りが私によそよそしいのがすべてじゃなかった。

私が、周りの人に無関心だったんだ。
それなのに、孤独の理由を周りに押し付けていた。

ポキくんのことも、あのとき「一緒に帰ろう」と誘われなければ、今でもただのクラスメートに過ぎなかっただろう。

隣にいる“今”がそもそもないかもしれない。

……そんな思考も、そもそも生まれなかったかもしれない。

ぜんぶ、ポキくんがいたから。
彼が教えてくれたから。

「ありがとう、私に話しかけてくれて」

私と、と続ける。

「友だちになってくれて」



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時

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