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比喩的な意味じゃない、ポキくんの隣。
それは心地好い場所のはずなのに、今は何だか居心地の悪さを感じてしまう。
いつもと違って口数の少ない彼に、いつもと違う雰囲気を感じて、何も話しかけられなかった。
学校を出るまでは普通だったのに。
なにか怒っているのかな、なんて心配になる。
気まずい沈黙。
こういうときって、どうすれば良いのかな。
勇気を出して話しかけるべき?
それとも、彼が口を開くのを待つべき?
考え出したら、心臓がどくんどくんと騒ぎ始めた。
意味もなく宙に視線を彷徨わせ、速まる鼓動にちょっと戸惑う。
今までこんなふうに、隣にいてくれる誰かに思いを巡らせたことなんてなかった。
その人を見て“いつもと様子が違う”だなんて、思ったこともなかった。
────でも、今は違う。
私は考えてる。 隣にいる、ポキくんのことを。
少なからず変化しているのだ。 関係性が。
ふと、ポキくんがマスクを摘んで上げ直した。
その動作を無意識に横目で追って、彼と目が合いそうになる。
慌てて前を向くと、抱えた鞄を抱き締めるようにして小さく息をついた。
……おかしいな。 何だか、意識しているみたいで。
バス停で、バスが止まった。
乗っていた私たち以外の乗客が降りていく。
窓からの金色の光があふれそうな小さな世界の中に、私と彼の二人が取り残された。
「あのね────」
私は前を向いたまま言った。
視界の端でポキくんが動いて、こちらを向いてくれたのが分かった。
「ありがとう」
ポキくんの方を向いて笑った。
彼は突然の言葉にピンと来なかったようで、数度瞬きをして私を見つめ返した。
「私ね、本当は寂しかった。 一人で過ごしてた時間」
とはいえ。
人付き合いが苦手なのは、誰とも打ち解けられないのは、周りが私によそよそしいのがすべてじゃなかった。
私が、周りの人に無関心だったんだ。
それなのに、孤独の理由を周りに押し付けていた。
ポキくんのことも、あのとき「一緒に帰ろう」と誘われなければ、今でもただのクラスメートに過ぎなかっただろう。
隣にいる“今”がそもそもないかもしれない。
……そんな思考も、そもそも生まれなかったかもしれない。
ぜんぶ、ポキくんがいたから。
彼が教えてくれたから。
「ありがとう、私に話しかけてくれて」
私と、と続ける。
「友だちになってくれて」
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時