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“友だち”だなんて図々しいかと思ったけれど、ポキくんは笑って頷いてくれた。
「つっても俺、なんもしてないけどね」
へへ、とさらに笑う彼。
優しい目が細められると、猫みたいで可愛い。
なんて考えている自分に気づいて、どきりとした。
何考えてるの、私。 自分で自分に戸惑う。
「そんなことないよ!」
おかしな自分を吹き飛ばすように、彼の言葉に返すと、いつもより少し声が大きくなった。
慌てて口を噤むと、ポキくんは私の勢いに若干気圧されたようにきょとんと目を見張っていたが、やがて顔を綻ばせた。
「そうかな……。 嬉しい」
はにかむ彼を見ていると、私までちょっと照れくさくなった。
穏やかな空気感に浸る。
ポキくんの存在を近くに感じる。
今の感情に味があるとしたら、きっと砂糖のように甘いだろう────。
♢
バスを降りる。
窓越しに見ると、Aが手を振ってくれた。
そんな些細なことでも嬉しくて、俺も振り返す。
と、彼女はぱぁっと表情を輝かせた。
可愛いな、なんて。 また“好き”が積もる。
発車したバスを見送り、リュックを背負った。
教室での出来事とか、バスでの会話とか、一人になった途端色濃く思い出して、にやけてしまいそうになる。
両掌を見つめた。
よろけた彼女を咄嗟に支えたときの感触はまだ残っている。
あー、そんなこと思い出すなんて変態みたいだな。
頬が熱い。 熱を吐き出すようにして息をついた。
そこへ、あの懸念が舞い戻ってきた。
Aとれんのことだ。
付き合っている、わけ……ないよな。
だってれんは最初のきっかけ作りにも協力してくれたし。
そして何より、Aが言ったのだ。
彼氏はいない。 好きな人もいない。 って。
でも、もしそれ以降の話だったら。
れんも本当はAが好きで、告白したら……、みたいな。
そこまで考えて、俺は首を横に振った。
その考えを打ち消すように。
ありえない。
れんが、そんなことするはずない。
もし仮に本当にAのことが好きだったとしても、黙ってそんなことするとは思えない。
分かってる。 でも……。
『さすがれんくん。 ありがとう』
Aの彼への笑顔を思い出したら、どうしたって胸が疼いてしまう。
ざらついた心を鎮めるように、振り切るように、両掌を拳に変えて握り締めた。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時