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「あ、これタグついてる」
Aが1つのフェイクグリーンを手に取った。
「ほんとだ」
タグを切る作業は昨日、男子たちに任せていたので、切り忘れだと思う。
床に置いてあったハサミに手を伸ばすと、Aもそうしていて、お互いの手が空中で触れた。
「あ、ご、ごめん!」
「ううん……!」
咄嗟に謝る。
ぱっ、と手を引っ込めたのは同時だった。
昨日の誰かさんみたいになった。
でも、俺はわざとじゃない。
急に心拍数が上がった。
熱を帯びる頬に、マスクが暑苦しく感じる。
ちらりと横目で彼女を見やると、また彼女もそうしていて、目が合った。
二人同時にそっぽを向く。
恥ずかしいような照れくさいような、くすぐったい空気。
緊張していたのは、俺だけじゃなかったのかも。
「……」
「……」
心音が速まる。
脳裏を掠めた懸念に、かぶりを振った。
れんがAを好きかもしれないとか、二人は“クラスメート”以上の関係なんじゃないかとか、そんな懸念たちのこと。
それらを気がかりに思うのは、俺がAに想いを伝えたとき、それらを理由に拒まれることが怖いからだと思う。
……でも、そんなの構わなくて良い。
自分が傷つくことを回避するための言い訳なんて、いらない。
今は、ただ強くそう思った。
今なら、言えそうな気がした。
「あのさ────」
好きです、って。
と、扉が開かれた。
「ただいまー。 進んだ?」
何ていうタイミングで……!と親友の再登場をこのときばかりは恨めしく思った。
「あ、れんくん。 おかえり」
Aは暢気に彼に答える。
……あと少しで言えそうだったのに。
最大限の勇気を振り絞ったせいで、一気に気が抜ける。
指先が小さく震えていた。 未だに動悸も収まらない。
自分自身を落ち着けるために、こっそり深呼吸する。
「A、これいる?」
「お! ショコラオレ!」
はしゃぐAに微笑むれん。
あまりに馴染み過ぎていて、最早ヤキモチどころじゃない。
この際だから、ぜんぶ吐き出してしまおう。
自分の中で、自分を納得させるための理由を当てはめては適当に握り潰していた“懸念”の真偽を、確かめたい。
「ねぇ」
俺は二人に呼びかけた。二人は同時にこちらを向く。
先ほどまで俺の中に満ち広がっていた勇気を、当初とは別の方向へと差し向けることにした。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時