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♢
『違う、そんなんじゃない。
Aさんは全然冷たくなんかない』
一度話してみれば分かる。
お高くとまってなんかないってこと。
本当はよく笑うし、凄く優しいんだってこと。
『……どうした？ 急に』
ここぞとばかりに反論した俺に、彼らは驚いたような視線を向けていた。
俺だってびっくりした。
言い返したのは衝動的な行動だったから。
『と、とにかく、そういうのは1回でも話してから言えよ！』
締まらないけれどそう言い放つと、逃げるように席を立ったのだった。
それからずっと気になっていた。話したかった。
────そして一年後、それが実現した。
きっと、Aはあのバスでのことなんて覚えていないだろう。
でも俺はずっと忘れない。
彼女と刻んだどんな瞬間も、余すことなく映画のフィルムみたいに記憶に濃く焼き付いている。
────好きなんだ、Aのこと。
たったそれだけだ。
なのにどうして、こんなことになったのだろう。
本当に嫌われてしまったのかな。
何かしちゃったかな。
変なこと言ったかな。
いくら考えても分からない。
訊けたら楽なのにな。
返ってくる答えに怯えて、それすら出来ない。
前にもあったな、こんなこと。
れんとAの仲について悶々としていたときのこと。
「……」
壁が立ち塞がっては何とか乗り越えて、そしたらまた新たに壁が出現して。
何でこんなハードモードなんだろ。
早く、この壁を乗り越える攻略法見つけなきゃな。
「ねぇ、ポッキーくん」
不意に背後からそう声をかけられた。
「ん？」と振り向くと、クラスの女子だった。
「これ貼るから、ここ押さえててくれない？」
彼女はリメイクシートを掲げて、外装のダンボールを指す。
「あ、うん。 おっけー」
軽い調子で返事してダンボールに手をやった。
彼女が宣言通りリメイクシートを貼っていく。
思い出してしまう────。
Aと同じ作業をしたときのこと。
あのとき、あの空間の、温度も距離感も香りもぜんぶぜんぶ特別で。
「ポッキーくんって、Aちゃんと仲良いよね。
もしかして付き合ってるの？」
「へ……？」
.
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年9月6日 17時
