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唐突に何を言われたのか分からず、間抜けな声が漏れる。
「えっ、え、そう見える?」
思わず尋ねると彼女は小さく頷いた。
心臓が跳ねて鼓動が速くなる。
そう、なんだ。
何だか無性に嬉しくて、顔が綻んでしまう。
だがそれと同時に、頷けないことが苦しくなった。
……これも、前にもあったな。
「付き合ってはないよ」
ちょっと萎んだ声音になる。
これを肯定出来る世界に変えたい。
「そうなの!? 良かった!」
良かった、って、ひどいな。
苦笑で返したものの、彼女の顔は本当に嬉しそうで、その言葉が冗談でないことは明白だった。
そんなに俺の不幸が嬉しいなんて、悲しい限り。
拗ねるように表情を引き締め、作業を続けた。
*
遠目にポキくんに目をやる。
彼はクラスの女子と話しながら作業をしていた。
二人が時折笑みをこぼすたび、喉の奥にひゅっと冷たい風が吹き付ける。
そうだ……。 そうだった。
彼にとっては、私は別に唯一の相手じゃない。
特別な存在じゃない。
悲しいけれど、それが現実だ。
意図せずとはいえこのまま素っ気ない態度を続けていたら、彼は愛想を尽かしてどこかへ行ってしまうかもしれない。
すべてが終わってから、違うんだよって、あれは、照れくさくて素直になれなかっただけなんだよって、言い訳したって後出しでしかない。
そうなってから後悔したって、もう手遅れだ。
だったらその前に、結果はどうあれ伝えるべきなんじゃないのかな……?
例えバッドエンドでも、せめて、悔いが残らないように。
ふと俯きかけた視線を上げてもう一度二人の方を見た。
彼女がポキくんに向ける笑顔の奥に、私の心にあるのと同じ感情が宿っているのを感じた。
その瞬間、胸の奥が疼いた。
ちくちくがずきずきに変わり、痛みが増す。
そして、はたと気づいた。
私、今、ポキくんがあの子にとられるんじゃないかって心配してる。
この痛みは、焦りと嫉妬だ……。
「……っ」
悟った途端、頬が熱くなった。 恥ずかしい。
私にそんな資格はないのに、ヤキモチなんて妬いて。
自分の弱さや醜さが露呈して、見えない何かに圧迫されているように息苦しくなった。
不意に、ポキくんが顔を上げてこちらを向く。
目が合いそうになって、慌てて逸らした。
それじゃ駄目だって、さっき思い直したばかりなのに。
と、そのとき。
私を呼ぶ聞き馴染みのある声が降ってきた。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時