#33 ページ33
.
階段を少し下りた先でれんくんが立ち止まり、階上にいる私を振り返って見上げた。
間が空くと言葉に詰まってしまうもので、開きかけた唇の隙間からは小さく息がこぼれる。
彼は急かすことなくひたすら私の言葉を待ってくれた。
ばくばく跳ねる心臓を抑えるようにそっと深呼吸する。
「……実は私、ポキくんのこと好きなんだ……」
言うと、一気に頬が熱くなった。
本人に告白しているわけでもないのに、照れくさくて落ち着かない。
騒がしい鼓動のせいで居心地も悪い。
れんくんが驚いた表情のまま少しの間黙り込む。
「マジ!?」
やがて口を開いた彼は、明るく顔を輝かせた。
どうしてれんくんが嬉しそうなのだろう、なんて首を傾げたが構わず私は細い声のまま続けた。
「本当はポキくんといっぱい話したい。
……だけど、いざ目の前にすると上手く出来なくて」
照れくささからやって来る緊張が邪魔をして。
それが逆に彼を傷つけてしまっているのに。
「それは────」
れんくんがゆったりとした歩調で階段を上ってくる。
私の目の前で立ち止まると、にやりと笑った。
「好き避けってやつじゃない?」
そうなのか、と腑に落ちる。
同時に、私のとってしまっているこの行動に名前があることに安堵した。
好きなのに避けてしまう……私だけが異常ってわけじゃないんだ。
「嫌いなわけじゃないのに避けちゃう。
照れたり、恥ずかしくて、逃げちゃう。 みたいな」
れんくんの言葉は的確だった。
今の自分はまさにそういう感じだ。
「どうしたらいいのかな……」
なんて呟いたものの、答えはもう分かっている。
話したいのなら話せば良い。
ただそれだけのことだ。
でも今は、それがとてつもなく難しい。
どうしても、彼を待ってしまう。
いつまでも受け身でいては何も変わらないと、これまでの一人の時間で痛感したはずなのに。
ポキくん、話しかけてくれないかな。
って目で追いかけては、いざ目が合いそうになると逸らして逃げて。
そうやって自分から距離を作っているくせに、期待だけは手放せないでいつも手の中に持ち続けている。
弱いなぁ、私。
勇気のない、意気地なしだ。
「文化祭、一緒に回れば?」
.
113人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時