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「えっ、ポキくんと? ふ、二人で?」
思わず聞き返すと、れんくんに何でもないことのように頷かれた。
「でも誘うの、無理だよ!」
話しかけることも出来ないのに。
いきなり“文化祭二人で回ろう”なんて、ハードルが高過ぎる。
「じゃあいいの?
さっきポッキーと一緒にいた子がポッキーのこと誘って、二人で回るってことになっても」
「それは────」
嫌だよ。 嫌に決まってる。
それを引き合いに出すのはずるい。
「なら、勇気出して誘ってみ」
れんくんの口振りは楽しそうなものだった。
しかし決して囃し立てたり冷やかしたりしているわけではないことが分かる。
「でも……」
「A」
まだ尻込みする私を、れんくんが先ほどとは打って変わって真剣に呼んだ。
「やる前から“でも”とか“無理”とかって逃げてたら、何も変わらんよ」
それは、春の心地好い陽射しのようにあたたかい言葉だった。
緊張と、不安と、怯えと、迷いで凍っていた心を溶かしてくれる。
確かにれんくんの言う通りだ。
私はまだ、能動的に動かないための言い訳を探していた。
“待つ”ための理由を欲していた。
それで自分の求めるのと違う結末が訪れても文句は言えないのに、傷つく未来だけは回避しようとする。
なんて都合が良いのだろう。
「大丈夫だから。 俺が保証する」
れんくんの優しい声が続く。
泣きそうになった。
胸の奥がじんと熱くなって、暗い感情が削ぎ落とされていく。
先ほどまではなかった勇気が湧いて、オレンジ色に輝いていた。
二の足を踏む必要なんてないんだ。
誰に気を遣うことも、怖がることもない。
そう思えるほど、彼の言葉は私の背中を押してくれるものだった。
……変わりたい。
殻を脱ぎ、弱さを捨てて。
……変えたい。
何も出来ないままの現状を。
私はポキくんが好き。
誰が何と言おうと、この気持ちは不動のものだから。
少しだけ、わがままを言っていいのなら。
少しだけ、欲張りになっても良いのなら。
私は、ポキくんの隣にいたい。
“友だち”の、その先の関係で────。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時