#35 ページ35
.
「ありがとう……、ありがとう、れんくん」
何も返せないのに、たくさんのあたたかさと勇気をくれて。
その優しさにどれほど救われたことだろう。
れんくんがいつも通りの微笑みで頷く。
「頑張れ。
変わりたいって思った瞬間から、変われてるよ」
心に灯りが燈る。
戻ったら、話しかけてみよう……。
文化祭、一緒に回りませんか────って。
購買に着くと、彼はショーケースの中から棒付きのアイスを2本取り出した。
白とピンク、バニラとストロベリーだ。
他の味も交えて残っている人数分買うのかと思いきや、れんくんは2本分のお金だけ、購買のおばさんに渡した。
「差し入れじゃないの？」
思わず尋ねると、彼は笑って答える。
「Aと、ポッキーにね」
差し出された2本のアイス。
自分用のじゃなかったんだ。
袋の部分を指先で持って受け取る。
「早く行っといで。溶けちゃうよ」
れんくんに促されるまま、歩き出す。
気持ちが逸って駆け出した。
けれど、途中で立ち止まって振り返る。
「ありがとう……！」
何度目かの5文字を繰り返す。
彼は穏やかに笑って頷いてくれた。
♢
廊下で忙しなく左右をきょろきょろと見回す。
さっきから話しかけてくる女子は、Aがれんとどこかに行ったのを見て彼女の悪口ばかりだ。
軽いだの、本当は遊んでるだの、根も葉もない作り話だろ。
相手にする気にもなれなくて、だからずっと適当に相槌を打ちながらAの姿を探していた。
「ねぇ、聞いてる？」
と、怒ったような口調で問われても、聞きたくないから聞いてません。
Aが軽いとか遊んでるとかはないにしても、いったいどこへ行ったのだろう。
買い出し？
だとしたら、れんのことだから、きっと俺に花を持たせてくれるはずだ。
あの二人に何もないと分かっていても心は落ち着いてくれない。
早く戻ってきて……。
「！」
廊下の角から現れたAは何故かこちらに向かって走ってきていた。
忘れ物か何か、急いでいる
「A────」
そうしてから、一瞬怖くなった。
無視されるんじゃないか、と。
でもそんなことはなくて、Aは俺の前で立ち止まった。
え、もしかして俺のために走って来てくれた……とか。
なんて、それはちょっと自惚れ過ぎ？
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 113人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年9月6日 17時
