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「ポキくん、あの────」
まずは謝らなきゃ。
そう思って彼を見上げたら、その背後から射るような視線が飛んできた。
思わず言葉を切ってしまう。
先ほどまでポキくんと話していた女の子の凄味に怯んで。
「ねぇ、ポッキーくん」
彼女は、醸し出す私への敵意とは裏腹に、彼を猫撫で声で呼んだ。
「やめときなよ、そんな子。
二人ともをキープするために戻って来たんだよ。
どういうことか分かる?
ポッキーくん、Aちゃんに遊ばれてるんだよ」
「な……」
何を言っているの?
……違う。 そんなんじゃない。 そんなわけない。
でも、頭の中に浮かぶ反論を声に出せなかった。
人からこれほど敵意を向けられたのは初めてで、これほどショックなのだとは知らなかったから。
咄嗟に言葉に出来なかった。
衝撃と動揺が全身を駆け巡り、心臓が早鐘を打つ。
その音がやけに大きく聞こえて、悲しみと怒りに打ちのめされそうになる。
ふと、ポキくんがこちらを向いた。
それでも言葉は生まれなかった。
違うよ。
二人をキープするとか遊んでるとか、そんなことしてない。 するはずない。
ただ、そう目で訴え続けた。
「……何それ」
ポキくんが呟く。
その声は今まで聞いたことがないくらいひどく冷たく、怒りに満ちていた。
一瞬、私に向けられたものかと思い背筋が凍りそうになったけれど違った。
彼がゆっくりと振り返る。
その先にはあの子がいる。
「さっきからずっと、Aのこと貶してばっかり。
Aの何を知っててそんなこと言ってんの?」
いつもより低いその声を聞けば、明白だった。
彼が静かに怒っていること。
それなのに、私の心はあたたかいままだ。
不思議と、涙まで滲んでくる。
「わ、私はただ、ポッキーくんのためを思って」
明らかに狼狽えた様子の彼女の声。
先ほどまでの威勢は消えている。
「なら、忠告どうも。
でもAは、そんな子じゃない」
鼻の奥にツンとした刺激を感じると同時に、喉が締め付けられるように痛んだ。
視界が透明に滲んで、ぼやけていく。
……どうしよう、泣きそうだ。
私が飲み込んだ反論を彼がしてくれたこと、私の味方でいてくれたこと、そして何より無条件に私を信じてくれたことが、嬉しくて。
「次はないよ。 それ以上言ったら、許さないから」
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時