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「ん?」
彼はアイスを食べる手を止め、じっと私を見つめた。
私は瞬きと同時に咄嗟に逸らしてしまう。
まず何を言うべきだろう……。
ごめんね、かな。 ありがとう、かな。
「あの────」
心が大きく鳴る。
相応しい言葉が浮かばなくて、何度も間を繋ぐその2文字を繰り返してしまう。
これまでの態度を詫びて、さっきのお礼を告げて、それからどう切り出せば良い?
どうやって誘えば良いのだろう。
それも、れんくんに訊けば良かったな。
頭の中でぐるぐると考え事をして、小さな後悔を抱き、しかしまだ本題に入れていないことを悟り、焦る。
勇気は形にならず、もやもやと漂いながら心に居座り続けて、何度も頭の中で行われるその一連の流れを繰り返しなぞった。
ポキくんはでも、苛立ちも催促もせず、ひたすら私の次の言葉を待ってくれていた。
それに気づいたとき、心がきゅっと締め付けられた。
苦しくはない。 ただ、とにかく泣きそうで、想いがあふれ出して……。
「好き────」
不意に唇の隙間から、その言葉がこぼれ落ちた。
ポキくんが一瞬フリーズして、それから目を丸くする。
「え」
あれ? 私、今何て……?
“好き”って……そう言ったの?
かぁっと頬が一気に熱くなる。
耳までじわじわと熱を帯びてきた。
先ほどの比じゃないくらい、心臓が暴れている。
違う。違う違う。
私は『好き』と伝えようと思ったわけじゃなかった。
謝って、お礼を言って、文化祭一緒に回ろうって誘う、ただそれだけのことをしようとしただけなのに。
思わず口走った言葉を取り消すにはもう遅かった。
それによって作り上げられた空気に飲まれて。
でも、私の言葉は事実なのだから、そもそも取り消す必要なんてないはずだ。
ただ照れくさくて、このくすぐったさをどうすればいいのか分からなくて、とにかく居づらい。
どうしよう、迷惑だと拒絶されたら。
……ううん、そんなふうに怯えるくらいなら、今衝動的に気持ちを放って良かった。
きっと段階を踏んで、もともと告白しようと意気込んでいたら、きっとずっと言えないままだったと思う。
今の関係を失うのが怖くて。
彼に拒まれるのが怖くて。
あらゆる理由を並べ立てて、無理矢理自分を納得させて、逃げ出しただろう。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時