#39 ページ39
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ポキくんは、呆けたまましばらく黙り込んでいた。
手にしているアイスが溶けて、アスファルトに白い斑模様が浮かび上がる。
「……」
「……」
沈黙がひどく切ない。
凪いだ空気に晒されて、だんだんと心音も落ち着き始めていた。
やっぱり、迷惑だったのかもしれない。
私の気持ちは、彼にとって。
言葉も失くしてしまうほど。
「ご、ごめんね、いきなり。 困るよね」
取り繕うのも虚しいけれど、そうする他にこの状況を切り抜ける術を思いつかなかった。
こうして無言で拒絶されても尚、せめて友だちという関係だけでも保てたら、と願ってしまう欲張りな自分に嫌気がさす。
今後どうやって彼に接すれば良いのか、未だ消えずに心に残っている“好き”という感情をどこに追いやれば良いのか。
分からないことだらけで、気持ちの整理も追いつかない。
単に傷つくことすらままならない。
それでも涙だけは浮かんでくるのだから困る。
ここで私が泣いたら、もっと嫌われるだろうに。
「迷惑だよね……。 忘れてくれていいよ。 ごめん」
声が震えて掠れた。
まだ、もう少しだけ我慢して、私。
ポキくんに背を向け、屋上の出入口である扉の方に向かう。
心が痛い。 ちくちく、ずきずき。
鋭利な何かで切り裂かれて、ぽっかり穴があいてしまったみたいだ。
気を抜いたら涙があふれて止まらなくなりそうで、ただ真っ直ぐ歩くことに全神経を集中させた。
一歩踏み出すごとに地面が沈み込むような錯覚を覚える。
それほどまでの悲痛を受け入れる覚悟がまだなくて、意識の核はどこか遠くへトリップしていた。
「待って」
だから、そう呼び止められて驚いた。
心臓を鷲掴みにされたかと思うくらい。
彼の声が聞こえたかと思うと、後ろからふわりと風が抜けていった。
私の歩みも引き止められる。
何が起きたのか分からず、刹那、困惑した。
その一瞬間後に分かった今の状況にさらに戸惑った。
彼は、後ろから私を包み込むように抱き締めていた。
回された腕の温もりは、これが夢ではないことを示している。
どうして？ 私、彼に振られたんじゃないの……？
頭の中の疑問符たちを言葉には出来ず、当然声にも乗らない。
収まりかけていた心音が、今までのどの瞬間よりも激しく脈打って、火照った頬が熱い。
「勝手に終わらせないでよ」
ポキくんの声がすぐそばで聞こえる。
回された腕に力が込もるのが分かった。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年9月6日 17時
