#40 ページ40
.
「困るとか、迷惑とか、そんなわけないじゃん」
彼の声色はちょっと拗ねたような調子だった。
“そんなわけない”─────坂道を転がり落ち続けていた感情が急停止する。
ショックの波が止まった。
「だって、俺……」
拗ねたような声音が、緊張の色に変わる。
何故か、帰り道で初めて会話を交わしたときのことを思い出した。
それを皮切りに、ポキくんとの記憶が煌々と輝き始める。
きらきらと光の粒を撒きながら、頭の中を駆け巡る。
そうして、思う。何度でも。
私は、ポキくんのことが好きだ────。
先ほど、なかったことにしようとしたのが恥ずかしくなる。
彼を好きになったことを後悔したことなんて、ただの一度もないというのに。
空気が澄んだ。
私は黙って、彼の次の言葉を待っていた。
「好きだから。 Aのこと」
耳元で、はっきりと聞こえたはずなのに、幻聴なんじゃないかと思ってしまう。
私にとっては夢のような言葉で……。
「本当に……？」
先ほどとは違う意味で声が震えそうだった。
身に余る幸せ過ぎて。
信じられないくらい嬉しいのに、何故だか涙の気配はなくならない。 おかしいな。
恋をすると涙脆くなるのだろうか。
廊下でなったみたいに、また視界が透明に滲んだ。
あらゆるものの輪郭がぼやけても、世界は眩しいくらいに明るく、彩りに満ちて鮮やかだ。
こんな世界を、初めて知った。
好きな人が自分を好きでいてくれる世界。
きみが、教えてくれたんだ。
「ほんと。 ていうかそれ、こっちの台詞」
耳に心地好い彼の声。
そう言ったかと思うと腕を解いて、今度は向かい合うように立った。
ポキくんのいつもは白い頬が紅潮していて、この状況が嘘ではないことが分かり、尚更嬉しくなる。
……それより、“こっちの台詞”とはどういうことだろう。
「今から言うことに引かないでね」
ちょっとバツが悪そうに彼は続けた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 113人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年9月6日 17時
