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#05 ページ5





「あ、来たよ」

と、れんが言った。
彼の視線を追うと、Aが教室に入ってきたところだった。

彼女は自分の席につくと文庫本を取り出して読み始めた。

Aに声をかける人は見当たらない。
彼女が席を立つ素振りもない。

チャンスだ!
そう思った俺は立ちあがると、脇目も振らずAの元へ向かった。



「おはよ」

机を挟んで彼女の正面にしゃがむ。

俺がそう挨拶をすると、Aはとてつもなく驚いた様子で目を見開いた。

「……お、おはよう」

少し間が空いてから、ぽつりと彼女が言った。
未だびっくりした表情のまま俺を見つめる。

こんなふうに自分から話しかけたことは初めてだった。
だからこんなに驚いているのかな?

あくまで余裕があるふうを装うため、俺は笑ってみせる。

本当は緊張で心臓が壊れそうだってことが、どうかバレていませんように。



「どうしたの?」

Aが尋ねてきた。

「何が?」

「何か用かなって思って」

……そっか。 たぶん、慣れていないんだ。
今まで誰かとつるんでいる様子も見たことないし。

友だち同士の会話、みたいなものに慣れていないんだろう。

俺がAの友だちかと言われれば、怪しいとはいえ。

「ううん、ただ普通に話しに来ただけ」

そう答えても、Aはきょとんとしている。

「昨日言ってたじゃん!
迷惑じゃないって。話しかけてくれたら嬉しいって」

「それは私じゃなくて、ポキくんの好きな人の話だよ!」

その“好きな人”が、Aなんだもん。
とは、さすがに声には出せない。

「何読んでるの?」

だから勝手に話しかけることにした。

「小桜ふわって人の小説だよ」

「へぇー、どんなの?」

「……恋愛小説、かな」

ちょっと照れくさそうに笑って文庫本に触れる彼女。
その表情に、どき、と心臓が跳ねた。

ちょっと驚きだった。

彼女が読書している姿はいつも見かけているけれど、もっと小難しい本を読んでいると思っていた。

恋愛小説だったんだ。なんて言うか、意外だ。

「……引いた?」

何も言わない俺に、Aは眉を下げて不安げに笑いながら問うてくる。

俺は、ぶんぶんと首を横に振った。
むしろ、可愛いなって思った。
ギャップってやつ? ……言えないけれど。

「良かった」

ほっとしたような彼女の目に、俺が映る。

彼女の世界に、俺がいる────。
甘く漂う想いに包まれていく。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時

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