#最終話 ページ41
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「俺、Aのこと去年からずっと好きだった」
「えっ」
さすがに驚きの声が漏れる。
去年、何か接点があっただろうか。
「たぶんAは覚えてないと思うけど、初めて話したのはバスの中だよ」
そう言われても、思い出せない。
正直、ポキくんと同じバスだと認識したのは初めて一緒に帰ったあの日からだ。
「前々からAって結構男子の間では有名人でさ、勝手に名前知ってるくらいだったんだけど。
ある日ね、バスでちっちゃい子がAの制服にアイスぶちまけちゃって」
記憶は共通のはずなのに、自分の身に起きたことを誰かの口から説明されるのは不思議な感じがした。
でもそれなら、覚えているかもしれない。
確かにバスの中で小さい男の子がバニラアイスをこぼしていた。
「そのとき俺も同じバスに乗ってて、ちょっと話したんだけど、やっぱ覚えてないかぁ」
その日のことを必死に思い出そうとしても、どうしても、ポキくんと話したことは記憶から抜け落ちていた。
「ごめん」
思い出せないことが申し訳ないような悔しいような複雑な気持ちで謝る。
「ううん、謝ることじゃないよ。
それにあのときは、俺はAのこと知ってたけど、Aは俺のこと知らなかったし」
ポキくんは優しく笑ってくれた。
でも、そう言ってくれても、やっぱり悔しい。
彼との出来事はいつでも取り出せる思い出として、記憶の引き出しにしまっておきたいのに。
ふとしたときに取り出しては、彼と共有して笑い合いたいのに。
「これから作ってこうよ。
忘れられないような思い出、たくさん」
ぽん、と頭を撫でられる。
ああ、本当にこれは夢じゃないんだ……。
心が満たされ、幸せがあふれ出す。
「……うん」
表情を緩めて頷くと、彼も微笑んでくれた。
この先どんな壁が立ち塞がってもきっと、ポキくんといればクリア出来るだろう。
幸せが漂い煌めく風に吹かれながら、これからもきみの隣で笑っていたい。
今のこの瞬間も、切り取ってしまっておこう。
甘い思い出の欠片たちを瓶に詰めて、大切に。
─Fin─
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時