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────After Story
♢
「あ……」
Aが小さく呟いた。
まだ信じられないくらいの幸せの余韻に浸っていた俺はそれによって我に返る。
彼女の視線の先を追って振り向いて、思わず「あ」と苦い表情を浮かべた。
Aを引き止めるために抱き締めたとき、手にしていたアイスを落としてしまったらしく、屋上の地面に斑な白色が浮かんでいた。
彼女の持っているストロベリーのアイスも、包装の中で既にほとんど原形を留めていない状態だった。
「どうしよ」
とりあえず棒だけ拾ってみる。
もったいないことしちゃった。
「……あ、見て見て」
Aが言って、地面を指した。
どこからやって来たのか、小さな黒い集団がバニラに吸い寄せられていく。
蟻たちは仕事が早い。
ひとまず無駄にならなかったことにホッとした。
でもやっぱ、申し訳ない。
せっかくAがくれたのに。
「ごめんね」
「え、ううん!
実はこれ、れんくんからの差し入れなの。
私こそごめん、最初に言わなくて」
そうだったのか。
じゃあ、れんと二人で行ってた先は購買?
そのときに、れんが何か言ってくれたのかな。
そのおかげでAが俺との間に作り上げていた壁が取っ払われたのかもしれない。
彼が親友でいてくれて良かった、と心の底から思うと同時に、このお詫びとしてアイスを奢ってやろうと決めた。
「私のも、どうしよう」
Aが眉を下げて溶けたアイスの袋を見る。
お互いに、確かにれんに申し訳が立たない。
「じゃあ今からちょっと購買行こ」
*
購買に着くと、ポキくんはチョコアイスと何故かストローを買った。
チョコアイスはれんくんへのお詫びと感謝の印だそうなので、私も半額出した。
「それは?」
ストローを指して尋ねると、彼はそれに答えることなく私の手にしていたアイスを貸して欲しいと言った。
彼は受け取ったアイスの袋を開けて、棒を取り出すと代わりにストローをさして私に返してくれた。
「凄い。 シェイクみたい!」
思わぬ打開策に感心して言うと、ポキくんは得意げに笑った。
ストローに口をつけて飲んでみると、まだ溶けきっていないおかげで舌触りが一口ごとに違って、本当にシェイクみたいだ。
「一口ちょうだい」
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時