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クラスメートたちは各々雑談を交わしたり何かしらをする傍ら、Aの方に興味を引かれているように見える。
Aが俺と話していることを不思議がるような視線。
当然だと思う。
一匹狼の彼女が突然、俺なんかと会話してるんだから。
それに、昨日の帰りの出来事を、れん以外は知らないし。
いくつもの好奇と羨望の眼差しに捕らえられ、居心地が悪い。
でも、ここを離れたくない。Aの近くにいたい。
束の間でも彼女を独り占め出来る優越感を胸に、クラスメートたちにドヤ顔してみたくなった。
「ポキくんって、部活やってるっけ?」
「ううん、帰宅部」
俺は首を横に振って答える。
「そうなんだ。 じゃあ私と同じだね」
ふふ、と笑うA。
わけもなく俺もつられて笑った。
「帰ったら何するの?」
ちょっと気になって訊いてみた。
彼女は帰っても勉強とか読書とかしてそうなイメージだ。
一拍置いてAは答える。
「ゲームかなぁ」
「え! めっちゃ意外」
思わず素っ頓狂な声が出た。
予想外過ぎて、冗談かと思ってしまう。
「そう?」
彼女は笑って首を傾げていた。
どうやら、嘘ではないらしい。
親近感が湧いて嬉しくなる。
「俺もゲームめちゃくちゃ好きなんだよね」
言うと、ぱぁっと嬉しそうにAの表情が咲く。
「私も好き!」
「……!」
わずかに目を見張った。
落ち着いていた鼓動がまた騒ぎ始める。
その『好き』の対象は俺じゃないって頭では理解している。
でも、勘違いした心臓は煩くなるばかり。
……と、チャイムが鳴った。
そのタイミングの良さに少し安堵しながら息をつく。
俺は立ち上がると、緊張と戸惑いを悟られないようにAを見た。
「じゃあ」
言うと、彼女は頷いた。
「またねー」
俺の内心を知る由もないAは、にこにこしながら手を振る。
もっと鼓動が加速しそうで、俺は慌てて視線を逸らすと自分の席に戻った。
「どうした?」
俺の席の前がれんの席。彼は振り向き問うてきた。
「珍しく積極的じゃん」
俺は火照りを冷ますように頬に手を当てながら答える。
「Aが、話しかけてくれたら嬉しい、って」
「えー、おまえに?」
「そうだよ!」
ちょっとムキになって食い気味に言う。
れんは楽しそうにけらけら笑っていた。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時