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♢
何がそんなに可笑しいんだか!
「で、さっきは何話してたの?」
答えたらどうせまた楽しむように笑うんだ。
「れんには教えてあげませんよーだ」
「俺のおかげで仲良くなれたのに?
そんな態度とっていいんか? お?」
うっ、と言葉に詰まる。
確かにれんのおかげ……でも、俺の勇気の結晶でもある。
それに、彼女との時間は、俺の中で留めておきたい。
「内緒内緒。 絶対言わないからね」
改めてそう宣言すると、れんは唇を尖らせて拗ねた。
ちら、とAの方を向いてみる。
驚いたことに彼女もこちらを見ていた。
目が合う────。
Aはびっくりしたように目を丸くした後、慌てて前を向いた。
「……」
俺はしばらくそちらを向いたまま固まっていた。
担任が入ってきてホームルームが始まっても。
ちょっとでも、彼女の世界の中に、俺という存在があることが嬉しくて。
ほんの少しでも、意識の中にいられることが幸せで。
昨日、勇気を出して良かった。
……心の底からそう思った。
*
午後のホームルームでは、今月末に行われる文化祭について話し合われた。
流れに身を任せているうちに、このクラスではカフェをやることが決まった。
と言っても文化祭でよくあるメイドとか執事とかそんな感じのものではなく、ただのカフェだ。 普通のカフェ。
「必要なもの書き出したから、今日買い出し行ける人行って欲しい」
教卓の前で委員長が言う。
クラスメートたちはお互いの顔を見合わせたり、聞く耳を持たず雑談していたり。
委員長は困ったようにそんな皆を見回している。
どうしよう? 俺、暇だけど……。
自分を納得させる理由を探していると、凛とした声が響いた。
「あの、私行くよ」
Aだった。
それまでのざわめきが止む。
皆が無意識に、無言で押し付けあっていた役割を、彼女が引き受けた。
「いいの? 本当に助かる! ありがとう」
委員長はホッとしたような表情でAに言う。
彼女は委員長から買い出しのメモとお金の入った封筒を受け取って、笑顔で頷いた。
「……」
……こういう、ところなんだよな。
だから、きみが好きなんだ────。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時