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ホームルームが終わり、皆が席を立っていく。
帰る準備をしている人、部活に行く人、さまざまだ。
私は委員長から受け取ったメモを丁寧に畳んでスカートのポケットにしまい、お金の入った封筒は鞄の中にそっと入れた。
「ありがとね、A」
帰り際、委員長がわざわざもう一度礼を言ってくれた。
「全然! 気にしないで」
気づいたら笑顔が浮かんでいた。
誰かに感謝されるために手を挙げたわけではないのだけれど、そう言われると、やっぱり嬉しい。
委員長と別れ、鞄を肩にかけると教室を出る。
どこに行こう……。
近くのショッピングモールにしようかな。
なんて考えていると、背後から誰かが駆けてくる足音が聞こえた。
「A!」
反射的に振り向くと、ポキくんがいた。
「どうかした?」
尋ねると、彼は逡巡するように視線を落とし、それから勢いよく顔を上げる。
「買い出し、俺も行く」
「えっ?」
思わぬ言葉に目を見張った。
最近────昨日から、彼には色々と驚かされる。
今朝も、私に話しかけてくれたことでどんなに驚かされたか。
そして……どんなに嬉しかったことか。
「あ、あの、嫌だったらごめん! 本当に」
しばらく私が黙り込んだことで、その無言の意味を勘違いしたらしいポキくんが慌てて言った。
私は首を横に振る。
「違うの。 ……本当に嬉しくて」
ポキくんが、私に話しかけてくれることが。
今まで誰とも深く関わることの出来なかった私を、気にかけてくれることが。
「ありがとう」
笑ってみせると、彼は少し目を見開いて、それから俯いてしまった。
「あ、そうだ。 買い出し」
私はしまったメモを取り出す。
二人で小さい紙を覗き込むと、いつもより近くにいるポキくんの気配で、心がちょっと落ち着かない。
洗剤の爽やかなにおいも相まって、距離感に戸惑ってしまう。
「“造花 大量に”って、雑過ぎない?」
ポキくんがメモに書かれた文章を見て吹き出す。
そこで、はっと意識が現実に戻った。
「ね!」
私もその文を目で追い、改めてメモを見る。
「この“リメイクシート 良い感じになるくらい”とかも」
私はメモの文を指して笑い、彼を見やる。
顔を上げたら、鼻先が触れそうなほど近くで目が合って、お互いに固まってしまった。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月6日 17時