【d!】画面越しの愛してる【短編集】 (ページ12)

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金木犀に掠われないで＿ci ページ12

ci side

あんなに暑くて毎日毎日嫌やった夏でさえも、2ヶ月くらい過ぎればあっという間に終わり、秋が来る。昼間はまだ夏並みに暑いが、夜の寒さと虫の声はもう既に秋のそれ。

秋になると哀愁効果でもあるんやろか。どうしようもなく不安になって、寂しい。心の中がそわそわして落ち着くことができない。

こういうときは温かいココアでも飲みたいところなんけど、さすがにまだ季節的に暑いよな。出しかけたあいつとお揃いのマグカップを棚に戻して、ガラスのコップに冷たい水を注いだ。

雑貨店には既に金木犀の香りの何かがお店の前にズラリと並んでいて、まだ金木犀は咲いていないのにあの特徴的な花の匂いがどこまでも鼻を掠めた。

嫌いじゃないねんけど、こうもずっと匂ってると鼻が曲がりそうやわ。元々の匂いが強いからなあ。

ぐしぐしと手で鼻を擦り、メガネを掛けなおす。昼のくせに世界がオレンジ色に見えた気がした。ただの気のせいやったみたいやけど。
　
　
　
　
　
　
　
　
　

　
『久しぶり、チーノ。もう秋やねえ』

「ん、おひさ A。ほんまにな。時の流れが早すぎてビックリしとるよ」

空が少し暗くなってきたくらい、玄関でころりと笑うこいつ。お互い近場に住んでいて、付き合っているはずなのに仕事が忙しくて中々会えずにいた、俺の彼女。

LINEで話したりしていたものの、やっぱり会えないと寂しい。そんな中、ちょうど俺とAの休みが被り、今度会おうということになった。

まだ仕事着姿のAを見るに、仕事が終わってすぐにこっち来たんやろなあ。キリッてしててかっこええ。

『ハア～、疲れた… お風呂借りるでチーノ』

「ええで。先入り」

首もとを緩めながら横を通りすぎるA。通った後の香りが、いつもと違うことに気がついた。