【d!】画面越しの愛してる【短編集】 (ページ8)

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オスマンはこの土地の伯爵の御曹司であり、厳しく正しく育てられ、世間を知らなかったお坊っちゃま。

そんな彼がどうして一般階級の私と仲良くしてくれているかは分からない。同じような人と関わるはずなのに。

それは家側も同じ意見らしい。まだ先にあるお見合いも既に断り、同じ御曹司や令嬢とも仲良くしない彼を不思議に思っているらしい。

オスマン本人曰く、「俺の知らん世界を教えてくれたんはAやったから」とのこと。

彼と知り合ったのは結構前だ。父母と離れてしまい、街で迷子になっていた彼を私が連れ回した。その時に初めて世界を知った… らしい。

それからずっと仲良くしてくれている。向こうの家のことは知らないが、私の父母は喜んでいることだろう。なにせ伯爵の御曹司だから。
　
　
　
私はどうでもいいけれど。
　
　
　
　
　
世間話が盛り上がっている途中、オスマンがぽそりと呟いた。

「俺も、Aと一緒に遊びたいねんけどな」

『…』

滅多に見ることの出来ない深緑色の目を逸らしながら言った。どうやらそれは、オスマンの本当の音のようだった。すぐにお菓子に塞がれて聞こえなくなってしまったが。

悲しそうな顔は好きじゃない。オスマンには、向日葵のように笑っていてほしいのに。

どうしたら笑ってくれるかな。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
月が上までしっかりと昇り皆がぐっすりと眠った頃に、私は家を抜け出した。向かう先はオスマンの家。

装飾の多い彼の家は、満月の月明かりに照らされて夜でもきらきらと光っていた。

お手製の梯子を窓に掛け、コンココンコンとノックする。するとすぐに窓が開き、光を目一杯瞳に宿したオスマンが顔を覗かせた。

「ま、待ってたで、A…！」

梯子を踏み外さないよう手を取り、私は彼を外に連れ出した。

『遊ぼうよ、オスマン！』

「もちろんや、A！！」

妖しく光る月光を太陽のような顔で浴びる向日葵畑で私とオスマンは走り回った。

心の底から楽しそうに笑い合う彼は、ひどく年相応に見えて。

オスマンも、私と同じ子供なのだと知った。

【期待(きたい)】

・あることが実現するだろうと望みをかけて待ち受けること。当てにして心待ちにすること。