お姫様と疑念 ページ19
…結局、吉祥寺愛海はすぐに転校することになった。先生は家庭の事情って言っていたけど、大多数の生徒が私を突き落としたことを知っていたので、皆事情は察していた。
暫くクラスメイトから心配されたけど、“なんともないから大丈夫”、と誤魔化しておいた。授業を終えて、今日も私達は部室へ向かう。
「今回も大したことない子だったね〜。」
「う〜ん…。そうだね…私の見込み違いだったのかな…。」
…実は、吉祥寺愛海について気になることが2点ある。
一つ目は、通常のミーハーっぽい女子よりは頭が回っていたこと。ミーハーな女子は露骨にスマイル君達に媚を売りに行くけど、吉祥寺愛海は瑠玖だけに媚を売っていたし、一応クラスメイトとも良好な関係を築こうとしていた。瑠玖が隣の席だというのもあったんだろうけど、他のメンバーには手を出そうとしなかった。
二つ目は何故こんな中途半端な時期に転校してきたのか。転校って新年度とか、新学期とかが多いイメージだけど、吉祥寺愛海は3月の中旬に転校してきた。あと一ヶ月もすれば学年が一つ上がるというこの時期に転校は、少し不自然に思えた。
「…来月から2年生、か…。」
新入生が入学してくるというのは喜ばしいことだが、怖いことでもある。また吉祥寺愛海みたいなめんどくさい女子が、大勢押しかけてきそうでうんざりしている。それでも、このバンドに新入生が加わることは絶対に有り得ないのだが。
「…瑠玖。」
「どうしたの、姉さん。」
「…瑠玖は、何があっても私の味方で居てくれるよね…?」
私にとって一番怖いこと。それは、瑠玖が味方でなくなること。瑠玖が敵になってしまったら、私は…。
そう思っていると瑠玖に抱き締められる。
「大丈夫、僕だけは何があっても姉さんの味方だよ。…例え、他の皆が全員敵になったって…僕だけは、姉さんを裏切らない。姉さんを守るって、約束するよ。」
…瑠玖の言葉はいつも安心できる。瑠玖が味方で居てくれるなら、頑張れる。
「…新入生、怖い?」
「…ちょっとね。弱気になっちゃった。でも、今の私には瑠玖が…皆が居るもんね。」
「…そうだね。…大丈夫、皆も姉さんの味方で居てくれるよ。」
そう言って瑠玖は私の手首を撫でる。
「…もう、こんなことさせないから。」
「…うん、ありがとう、瑠玖。」
…この時の私はまだ知らなかった。吉祥寺愛海は、これから始まる事件の序章にしか過ぎなかったことを。それを知るのは、もう少し後のお話。
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作者名:さくらもち | 作成日時:2024年3月20日 17時